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2006年5月

2006年5月 4日 (木)

ニュースレター第81号2006年5月1日 チャリティ・コンサートに太鼓演奏の「鼓童」が後援 

ユーラシアンクラブニュースレター第81号2006年5月1日


アムール汚染、健康被害が懸念 チャリティ・コンサートに太鼓演奏の「鼓童」が後援 大野 遼

    ハバロフスクから北東70キロ。アムールの岸辺に広がるナナイ人たちの村シカチアリャン。太古の昔から引き継いだアムール漁労民という暮らしと文化が危機に瀕しています。自立の道を模索する300人の住民の苦しみと運命は、欧米的産業社会に巻き込まれたアジアの未来の不安と重なっています。

    アムール汚染に触発されたロシアの科学者の最近の発表によると、アムール川には毎年150億トンの工場排水が放出され、金属イオン、硝酸塩、亜硝酸塩、燐酸などの淀んだ有機物で汚染されています。昨秋、「漁労禁止」が命じられ、3月、アムール川が凍結しているにもかかわらず「禁止解除」が発表されましたが、状況が変ったわけではなく、広大なアムール川の一部での水質検査を根拠に不安解消を狙ったものに過ぎません。

    「禁止解除」後も、ハバロフスクの新聞では、「食べては駄目」と大見出しで、鯉やカワカマスなどアムールの魚が危険であると特集記事が出され、今回のニトロベンゼン汚染だけでなく、旧ソ連崩壊後この10年ほどの間汚染が続いており、アムールの魚を食べない人がいることを紹介しています。

    エホ・モスクワという民間放送局の最新の情報によると、アムール川の沿岸住民の大人の73パーセント、14歳までの子どもたちの80パーセントに、アムール川の水による肝臓障害が見られ、癌の原因になる可能性があるという、ロシアの環境科学者の身体検査の結果が公表されています。農薬の汚染の結果と見られる奇形の魚がいるとの指摘もされています。アムール川から取水しているハバロフスクの上水にも不安があり、私がこの1月ハバロフスクで出会ったロシア人は、4,5年前から水道水は飲まず、ボトルで大量に水を購入していると話していました。

    今後、松花江やアムールの凍結した氷が融けはじめると、アムールの汚染度が上昇したり、産卵期の湖に流れ込んだり、アムール河口からサハリン沿岸から、日本海、オホーツク海の漁業海域の汚染原因となり、カニや魚介類を食する日本人にとっても深刻な問題になります。

    アムール汚染を機に、ロシアの世論も汚染企業や工業排水の正確な量、排水規制に急速に関心が高まっており、今後川底沈殿層120サンプル、氷300サンプルの汚染検査が予定されています。

    アジアでは、黄河、長江、アムール川(黒竜江)とアジアの三大大河が、いずれも中国全土の開発振興を背景にした工場排水によって河川、海洋の汚染が進行しており、日本の昭和40年代の公害がアジア規模で現れています。アムール汚染による少数民族村存亡の危機は、日本を含むアジアの未来、水と環境への不安そのものであり、アジアの多様性という文化の危機であります。

    私たちは、人類にとって大切な水の保全とアジアの多様性という民族文化の未来のために、コンサートを行います。危機に立つ300人の村民の自立が、アジアの未来の希望につながるという気持ちで、ネパール、イラン、ウイグル、モンゴル、日本のアジアのアーチストによるミュージック・キャラバンが、アジアの未来と少数民族自立支援の音色をお届けします。ぜひおいでください。

    今回のチャリティ・コンサートに対して、新潟県・佐渡島を拠点に、太鼓を中心とした伝統的な音楽芸能による創造活動に取り組む,日本を代表する太鼓演奏グループ「鼓童」の公益法人「鼓童文化財団」が後援していただくことになりました。「鼓童」は今秋シベリアツアーを予定しており、シカチアリャン村へも激励訪問する予定です。

    自らも母国で小学校を建設し、身寄りのない、貧しい子どもたちを支援しているネパールの笛・バンスリ奏者パンチャラマは、弟の太鼓奏者、ネパール舞踊の妻のトリオで参加するなど、出演者はいずれもアジアの未来にかかわる仲間のため演奏に工夫をこらしています。皆さまのお力を是非お貸し下さい。
    【写真】ハバロフスク州の週間新聞「アムールの子午線」2006年3月15日付。大見出し「食ってはいかん」と書いています。


ロシア・アムール少数民族村自立支援チャリテイ・コンサート『アムールに届け、支援のミュージック・キャラバン』

イラン、モンゴル、ウイグル、ネパール、そして日本のアーチストが熱演

    出 演:ライ・ハスロー(馬頭琴演奏家、作曲家 中国・内モンゴル)梅木秀徳(ホーミー、口琴演奏家 日本)アブライテイ(タンブル演奏家、中国・新彊ウイグル) シャーサーバリー・ハミド(サントゥール、ネイ(笛)演奏家イラン)パンチャ・ラマ(パンスリ(笛)演奏家 ネパール) タラー(中国古筝、中国・内モンゴル) 山口幹文(篠笛・鼓童)

    本コンサートは、収益金を村に寄付し、自立の一助にするために行うものです。皆さまのご参加とお力添えをお待ち申し上げます。
    チケット:前売り1,800円 当日2,200円 チケットぴあでも扱います。
    日  時:6月13日(火曜日)18:00開場 18:30開会 
    会  場:目黒区区民文化センター 目黒区目黒2-4-36
    最寄り駅:JR山手線 東急目黒線目黒駅徒歩10分 バス権ノ助坂下車徒歩5分
    主  催:ユーラシアンクラブ 共  催:東京アイヌ協会
    後  援:財団法人 鼓童文化財団
    お問合せ:ユーラシアンクラブEL/FAX:03-5371-5548 E-MAIL:paf02266@nifty.ne.jp
    お申し込:郵便振替で口座名ユーラシアンクラブ 口座番号00190-7-87777までシカチアリャン支援コンサートとしてご送金下さい。
    【写真】ライ・ハスローさん


エネルギー革命の時代に希望を~「ユーラシア大地の学校」開設に向けて 第二十三回

ホンダが推進する家庭用水素供給システム 報告者:若林一平

    産業の国際化が進む今日、日本企業の動向も海外での活動の観察ぬきには論じられない。トヨタの高級車レクサスの国内展開も北米市場での成功が国内に逆輸入されたものであることはよく知られている。さて、今回はホンダが構想し研究開発を進める水素エネルギーシステムの話題である。

    ホンダの水素エネルギーシステムの研究開発はきわめて戦略的なものである。燃料電池の目立った特徴としてその分散性にある。ホンダの構 想はきわめてシンプルである。要は、家庭で水素を経済的に製造して蓄積することができれば、家庭そのものがマイカー用の水素ステーションになるというアイデアである。水素経済社会の大変わかりやすい未来像である。

    ガレージに車を入れたら備え付けの定置式スタンドから燃料の水素を充てん。家の電気・給湯もこのスタンドだけで間に合ってしまう。こんな水素ステーションをアメリカホンダグループのホンダR& Dアメリカズは、1999年から燃料電池ベンチャーのプラグパワー社と共同で開発を進めている。名付けて「ホーム・エネルギー・ステーション(HES)」、既に第3世代モデルが誕生し「Home Energy Station III」としてカリフォルニア州トーランスで実験稼働を開始した(2005年11月14日発表)。

    「Home Energy Station III」に供給するのは天然ガス。発電能力の5kwは平均的な米国家庭の電力を十分にまかなえるという。エネルギー浪費の代表格として有名な米国家庭で使えるのだから実用上問題のない実力だ。

    ホンダの発表によれば、「Home Energy Station III」は、小 型・高性能の改質器を新開発、「Home Energy Station II」と比較して約30%小型化し、発電量を約25%向上するとともに起動時間を1分に短縮した。また、水素の製造・貯蔵能力も50%向上している。また、一般家庭の使用に応じて、変化する消費電力量に追従して発電量を変化させる機能や、水素貯蔵タンクの水素を利用して発電を行う停電時のバックアップ機能も搭載した。

    ホンダのパートナーであるプラグパワー社は軍事用の代替燃料開発のメカニカル・テクノロジー(MTI)と電力大手のデトロイト・エジソ ン傘下のエネルギー企業が折半出資する燃料電池ベンチャーである。近年新たにGEとシティグループも出資、軍事・エネルギー・金融の役者 が揃って、プラグパワーへの期待が集まる。

    自動車分野でのホンダの米国進出は群を抜いて早かった。家庭用の燃料電池開発でも既に15年以上の実績。水素経済の主役の座に向けての取り組みが進む。
    【写真】「Home Energy Station III」(中央右)とホンダの燃料電池車「FCX」(左)(http://www.honda.co.jp/)


新聞「ズクリャドッ」が伝える「アムールの川魚」 翻訳:ジーマ・オダ

    モスクワ20060214発(アナトリイ・イワノフ記者)
    アムールの川魚は農薬に汚染され、鱗が落ちて、なかなか直らない病気にかかっているとロシア魚類科学者は判断しました。コメントはまだですが、生態破壊で漁業界が損害を受けることが明らかです。今までも、こんな病気がちの魚を捕ったいくつかの例がありましたが、いまでは危険状態になっています。

    夏になると汚染水の流れた冬の汚染度より、川の汚染度がもっと高くなる不安があります。氷に入って凍った化合物が、解けた氷と一緒に流れ出て、スンカリ川とアムール川に流れ込み、増水に流されて湖に入り、産卵地域に届きます。ハバロフスクで開催されている国境地域汚染問題国際会議で、毎年150億トンの廃水が放出され、その中23万トンはロシア企業の工業廃水だと公表されました。

    1989年からアムール川は金属イオン、硝酸塩、亜硝酸塩、燐酸と淀んだ有機物で汚染されていると科学者は指摘しています。

    アムールの生態の惨事はハバロフスク州の問題だけではなく、それは国際問題で、アムール川の汚染物はアムール大河口とサハリン湾とタタル海峡を経て、日本海とオホーツク海の汚染の原因になります。その海域は大規模な漁業海域であると、ハバロフスク州知事イシャエフ氏が強調しました。

    アムール川の流域では3,000種類以上の植物が生えて、70以上の野生動物、消滅の危機に瀕している極東のコウノトリ、日本丹頂鶴、ダウリヤ鶴などを含む400以上の野鳥が生息しています。いままでアムール川には103種くらいの川魚が住んでいましたが、これから減っていくでしょう。

    ハバロフスク州の経済発展・対外関係省の対外政策部長キリヤノフ氏は次のように語りました。「ロシアと中国、両国の領土汚染だけではなくて、生態破壊の跡がアムールから海へ出て、サハリン、千島列島のほか日本と韓国の海岸に届く恐れがあります。」「私たちの予測では粘土と淀んだ有機物と、吉林市での工場の爆発時に出たいろいろ物質が、アムールの流れに乗って海に出て、幅広い海域に広げていくと思います」


日本・ネパール国交50周年チャリテイ・コンサート~『ネパールの音楽と舞踊の宴』

    国政混乱による経済危機のため教育資金が少なく、勉強したくても近くに学校がない子どもたちがたくさんいます。首都カトマンズ郊外に中学校を建設し、日本での収益金をその運営にあてています。今年は火災で焼け落ちた小学校の校舎の再建に使われます。

    パンチャ・ラマさん他ネパールのアーチストたちの音楽と民族ダンスの祭典です。お楽しみ下さい。
    日  時:2006年5月6日 開 演:13:30~16:00
    会  場:池袋芸術芸場 JR池袋駅下車徒歩2分
    チケット:前売3,500円 当日3,800円 ペア6,000円
    お申し込:03-3971-2055 0422-21-0057


自立支援・理解・親睦・協力~アムール・沿海州エコカルチャーツアーに皆さんのご参加を

    観光で自立を図ろうとしているシカチアリャン村住民や、森林伐採などに不安を抱える沿海地方の狩猟民族ウデゲの友人たちとの激励・交流・視察のため、7月14日から21日までアムール・沿海地方エコカルチャーツアーを実施します。多くの方々の参加を募集します。ツアーには村民との交流の他、岩絵の見学、原生林の散策などのプログラムもありますが、それまでに寄せられた募金を村に届けます。

    旅行期間:2006年7月14日から21日の8日間
    旅行経費と開催条件:1人215、000円(マイクロバスチャーター料金、ボート借上げ・同行漁師・漁師報酬、宿泊・食事、等滞在費用含む/ビザ代、ロシア国内手数料、ロシア大使館手数料、空港税別)。
    旅行企画:特定非営利活動法人ユーラシアンクラブ 
    催行人員:5~10人。同行者:大野 遼
    ※ 注1現地の事情でスケジュールがかわることがあります。
    ※ 注2寝袋等野外トレッキングに必要な備品、その他釣具(ビキン川用)・双眼鏡・医薬品・トイレットペーパー・ヤッケ等防寒具・防虫ネット等ご用意ください。

    【スケジュール概要】村の状況、天候等で相談の上、変更の場合があります。            
    第一日目:7月14日(金)新潟~ハバロフスク。イントゥーリストホテル泊。
    第二日目:7月15日(土)シカチアリャン村役場、幼稚園、博物館見学。民族芸能鑑賞。ペトログリフ見学等。
    第三日目:7月16日(日)漁民のボートでアムール川視察。村民と交流、土壌・気象調査、深井戸予備調査。
    第四日目:7月17日(月)シカチアリャン村からクラスニーヤル村へ移動。
    第五日目:7月18日(火)クラスニーヤル村村民との交流。
    第六日目:7月19日(水)ビキン川遡上。猟師小屋、原生林探索。伐採現場調査。
    第七日目:7月20日(木)夕方シカチアリャン村に移動、シカチアリャン泊。
    第八日目:7月21日(金)ハバロフスク空港へ移動。帰国
    【写真】黒澤明監督・映画『デルス・ウザラ』の舞台・ビギン川沿いのクラスニヤール村の子どもたち 撮影:河野眞一


心中穏やかならなぬ年の旅はじまり「極寒のトラは氷結したアムール川に潜んでいた!」3 河野眞一

    「狩猟小屋でトラ談義」
    12日10時頃シカチャリアン村を出発してクラスニーヤルで二日間を過ごす。生まれて初めて食べた大鹿(イジュ―ブリ)の刺身やレバー刺は、九州の鹿や蝦夷鹿の味とは違った食感だった。

    翌日マガジンで食料を調達していよいよ狩猟小屋キャンプに、タイガの奥深く分け入る。ウオッカを乾すほどにグリゴーリさんの狩猟武勇伝も弾む。タイガでトラと出会ったらどうするか?更け行く夜に白熱するトラ談義。最初に出会った者がトラに喰われる運命にある。この世の絶対的生物は、人間ではなくこのタイガにおいてはトラが絶対的生物だと、鼻息が荒い児島さんと対立して激論を続ける河野に「ペチカの火を絶やさず燃し続けないと、朝になっても目が覚めないよ」言った二人はすでに豪快な狩りの夢でも見ているのだろう。

    児島さんと交代で薪をくべる、特に児島さんは根気強い。夜明け前、小屋の脇の小川の氷を割って、皆の飲み水を汲もうとした児島さんが、小川の淵で滑って転んで足首を痛めたらしいトラに、喰われなくて良かったと言っても相変わらず児島さんの鼻息は荒い、天気は晴朗。山小屋を出て約3時間余りでクラスニーヤル村に返ってきた。

    12時45分シカチャリアン村に向かって帰り旅の始まり。村は銀色の道の遥か300kmの彼方。「あなたは心に炎がありますか?(アゴー二ジーズリィ)」昨夜グリゴーリさんに、小屋で習った言葉を思い出しながら午後2時頃沿海州に入る境界で、ナホトカを背に、氷雪のビギン川、タイガの奥深き狩猟小屋の想い出と、シカチャリアン村への旅の安全に乾杯を捧げる。

    16時45分大野さんが軍施設近くのマガジンで今宵の食料調達中、同行した児島さんが写真撮影をしたとかで、何やら4、5人の愚連隊に難癖を付けられるが、大野さんの機転で無事解決。場所によって写真撮影は要注意!18時45分シカチャリアン村帰着。

    沿海州エコツアー最後の夜の支度にかかろうとしたところ、バーバカチャ宅より夕食に招かれる。家に入るとバーバカチャはドラム缶を傾けて、なけなしの美味しい飲み水をご馳走してくれた。19時20分テーブル一杯に並べられた定番のボルシチ、人参サラダ、取って置きの 手作りの木の実シロップや苺ジャム、そして蒸かしじゃがいも、ナマズのスープ等々、大野さん同行ならではのスペシャルメニューを頂いていると、われわれを訪ねて民芸品を販売にきた勤労少年に感心したが、このような光景もアムール汚染がもたらしたもの功罪であろう。

    その直後には、ウォッカを欲しさに飲み水をねだって極寒の扉をたたく大人も居たり...。何やら村の様子は穏やかでは無くなりつつある。否、氷結したアムール川には「中国の極悪なトラ」が潜んでいる。(以下次号)
    【写真】狩猟小屋の前で、筆者たち


キルギスへの誘(いざな)い 写真で見る中央アジアのオアシス01 若林一平

    今号からシリーズで『キルギスへの誘い 写真で見る中央アジアのオアシス』をお届けします。日本国籍の方はビザ無しで行けますので、グンと身近になりました。(編集部)

    キルギスは水と緑のくにである。28,000以上の河川と 1,900以上の湖沼そして無数の温泉がある。最大の湖イシククルの面積は 6,235平方キロメートル。日本最大の湖である琵琶湖の10倍近い 規模、まさに桁違いの大きさ。1998年8月、ユーラシアン クラブメンバー6人によるイシククル湖を中心とする大自然体験ツアー が実施された。(写真:イシククル湖へと注ぐ川の畔に張られたクラブ のテント。川には氷河からの生まれたての融解水がほとばしる。撮影:若林一 平


燕京通信 大興安嶺紀行 その5 一路ハイラルへ 井出晃憲

    翌日の朝は早かった。マンクイ鎮を発つ旅客列車は午前6時35分発の日に一本のみだからだ。6時頃に駅に到着すると切符売り場はすでにかなり行列している。派手な格好のトレッキングの旅行者などもけっこう多い。客車に乗り込むと、昨夜同宿した高校生くらいの若者がすでに乗り込んでおり私に声をかけてきた。話を聞いてみると、マンクイ鎮から汽車で2時間ほど南下した小村に実家があり、本人はそこからさらに南の根河市の高校で寄宿生活をしており、今回は休暇で漠河に住む親戚を訪ねての帰りで実家に戻るところだという。かつて白色地帯と呼ばれた場所を高校生でも一人で行き来する。すっかり生活ルートになっているのだ。

    列車はビストラヤ(激流)河に沿って南下していく。ところどころで停車する小駅からは、たいていグループの学生達が乗車してくる。おそらく自然の中で休暇を楽しんだのだろう。出発時には閑散としていた車内は、まもなく立ち客が出るほど混みだし賑やかになった。

    8時半過ぎに高校生が下車するという金河駅に到着したが、駅舎もホームもなく貯木場があるだけで住宅も見えない。近くに林業基地でもあるのだろう。駅には父親が迎えに来ており、高校生は父親の姿を認めて嬉々として下車していった。そのあたりから列車はだんだんと登り勾配にさしかかる。ビストラヤ(激流)河とガン(根)河支流の分水嶺に分け入ったのだ。

    列車は速度を落とし、きつくなった勾配をあえぎあえぎ登っていく。峠の駅で下り列車との交換で小休止。あたりは見渡す限りの森林地帯だ。ここからは軽快に速度を上げながら峠を下りていく。掘削した岩肌が手に届くほど窓に迫ってくる。そして山肌に寄り添っての連続したカーブ。建設はざぞかし難工事だったことだろう。

    峠を下りきり平野が開け10時42分に根河駅着。鉄路はここから牙克石方面に伸びているが、かつての探検隊と同じルートを辿るため列車を降りた。このあたりで探検隊の隊員は馬オロチョンのユルタを訪問している。馬オロチョンは馬を飼育する狩猟民で、森林ステップという環境に即した生活型を有し、その居住地は限定されていた。隊員の眼に馬オロチョンは不健康に映り、陰鬱な空気を感じたという。

    というのも、日本軍に協力することで最低限の生活は保障されたが、それにより狩猟生活への積極性が失われたからだろうという。特にトラコーマという眼病が子供にまで蔓延している惨状を報告している。そして、軍が要求する「自然民族の軽快な行動性と射撃技術とは、トラコーマがかれらの眼をむしばんでゆくように、日に日にうしなわれてゆきつつあ」る、と皮肉を込めて綴っている。

    根河からは自動車でガン河に沿って、探検隊の出発地である三河地方をめざす。120kmほどの道のりを1時間半ほどで飛ばす。森林ステップのところどころに半農半牧の小さな集落が点在する。気持ちよく晴れ渡った青空と緑と黒土の色のコントラストが眼に焼きついた。そして三河地方の中心地アルグン市に着く。

    探検記には、三河地方は自然地理的には「シベリア的世界とモンゴル的世界の境」にあたり、ザバイカルからの白系ロシア人の入植者が主体で「西洋文化の田舎くさい片端が、国境をこえて顔をのぞかせている」と形容されている。興味深い場所だ。今もアルグンの街にはロシア系の顔が多く見られ、週に1便国際バスがアルグン河を超えてロシア側と往来している。(かつての中心地で探検隊の出発地であったドラガチェンカ(現在の三河鎮)という場所でここから20kmほど離れている。)アルグンからハイラルまでは高速バスが頻繁に出ている。所要は2時間ほどだ。あっという間に着いた。わずか数日ぶりの都会なのに人ごみが新鮮に映る。

    翌日、ハイラル郊外の旧日本軍ハイラル要塞跡に出かけた。いま地下要塞跡は観光地となっていて、夏とはいえ肌寒くじめじめとした薄暗く長い地下道をえんえんと歩いて見て回る。外に出ると眩しい光。南に開けたホロンバイル平原から北の丘陵地帯まで一望に見渡せる。かつてここを越えた一隊員は記している。「最前線をこえて、軍事的な真空地帯にでたという心安さが、われわれの気もちをかるくした。ここからアムールの江岸までゆこうとする探検隊の道の支配者は、関東軍ではなくて、自然である。」若い気概が伝わってくる言葉だ。と同時に時代の移り変わりを感じさせられる言葉でもある。(終わり)【写真】三河地方の森林ステップ


編集後記:今号は試験的にプリントアウトしたものをそのままお送りしてみます。今までより、かなり鮮明になったかと思います。次号以降も続けるため、幾つかの課題をクリアできればと思っています。/6/13チャリテイ・コンサートまであと四十数日。会場の417席を皆さんとの共同の力で埋め、村に元気を運びませんか。(高橋)


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